「ゆきゆきて、神軍」

ゆきゆきて、神軍 [DVD]
原一男監督によるドキュメンタリー映画。元日本軍兵士、不動産業者殺害と過激な
天皇活動で前科三犯13年を超える服役体験を持つバッテリー商、奥崎謙三。彼は
終戦直後、ニューギニア戦線で起きた兵士銃殺事件の真相を突き止めようと行動を
起こす。作品には興味があったものの恐ろしいものを見せられそうで敬遠していた
映画。思い切って観てみた。画面と向き合ってるうちにじんわりと神経が痺れていく
ような感覚が襲ってくる。

私の判断と責任において、自分と人類に良い結果が出る暴力は大いに使う。

奥崎謙三の持つ理屈や価値観は矛盾の塊みたいなもので、殺人予告めいた文章を
びっしりペイントした車で走り回る姿は狂人にしか見えない。銃殺事件の関係者を
一人一人訪ね、真実を聞き出そうとするあたりからが凄まじい。それぞれが戦後の
人生を歩み自分の家族と生活を持っているにも関わらず日常を破壊していく。飛躍
した理屈をえんえんと話し、執拗で強引。相手の都合を無視し誤魔化しや泣き落しに
動じず非情に白黒をつけようとする。突発的に暴力を振るうし、始めから殺人を覚悟
している。理屈はこねても行動の言い訳をしようとしない。非常識に一本筋を通す
奥崎の強靭さが生々しく伝わってくる。バイオレンス・アクション小説の主人公
さながらの人物だがザラザラした映像がドキュメントということを観る者に忘れさせ
ない。「反戦」を主張する奥崎本人が「戦争」を体現してしまっており不条理で
ある。後半、奥崎の不条理極まる理屈が常識を圧迫し真実を暴いていく様は気が変に
なりそうだ。奥崎が常識人を追い詰め吐き出させた証言からは毒々しい「戦場」が
姿を見せる。「戦場にだけは絶対に行きたくない」という気持ちをこれほど味わった
ことは今までにない。奥崎謙三という個人による「戦争」映画であると共に強烈な
反戦」の映画でもある。

奥崎 謙三(おくざき けんぞう、1920年2月1日 - 2005年6月16日)は、元日本軍兵士(独立工兵第36連隊所属、階級は上等兵)、バッテリー商、著述家、俳優、自称・神軍平等兵、自称・非国民、反天皇活動家。
天皇パチンコ事件、天皇ポルノビラ事件といった過激な反天皇活動や、奥崎を描いたドキュメンタリー映画ゆきゆきて、神軍』で知られる。
入院していた神戸市内の病院で、死去寸前まで「馬鹿野郎」と周りに喚き散らしていたと報道されていた。

何に対して「馬鹿野郎」と言っていたのかは知りようがないし理解できないと思う。
奥崎謙三自身は最後まで何かと「戦争」することを止めなかったらしい。このような
生き方を貫いてしまう人がいたことに驚嘆する。