「現代語訳 南総里見八犬伝」上下巻 曲亭馬琴 (著),白井喬二 (翻訳) 河出文庫

現代語訳 南総里見八犬伝 上 (河出文庫)現代語訳 南総里見八犬伝 下 (河出文庫)里見八犬伝 DVD-BOX
年始にお正月らしいことをしたと言えは2日3日の二夜連続放送されたTBS50周年記念の
5時間ドラマ「里見八犬伝」を観たことぐらいである。ドラマの感想はひとまず置いて、
ドラマを観たことがきっかけで原典の「南総里見八犬伝」を読んでみたくなった。
里見八犬伝」というタイトルを最初に知ったのは薬師丸ひろ子真田広之出演、
深作欣二監督の角川映画だった。この映画は馬琴の作品の映画化ではなく鎌田敏夫
新解釈で書いた小説「新・里見八犬伝」が原作。映画は当時観ており深作欣二らしい勢いの
ある演出は迫力があったが展開がセカセカして落ち着かない印象が残っている。鎌田敏夫
小説「新・里見八犬伝」はいつ手に入れたのか自分でも覚えていないが持っているので
いずれ読んでみるつもりだ。その後、山田風太郎忍法帖シリーズにアレンジした
忍法八犬伝」を読み、同じく山田風太郎の「八犬伝」を読んだ。「八犬伝」は八犬士の
活躍を描く「虚の世界」と執筆を続ける原作者・馬琴を描いた「実の世界」、2つを
交錯させてつくられたもので「作家と作品の関係」を書こうとした山風版「八犬伝」は
崇高なラストシーン迎える。これには感銘を受けたし忘れがたい作品である。しかし今回は
南総里見八犬伝」の物語そのものに入り込んでみたい。といっても馬琴の原作は
岩波文庫から現在入手できても読みこなす自信がない。様々なリライト版が出版されている
中でも、より馬琴の原作に近いと思われる白井喬二による現代語訳版を選んでみた。伏姫の
自害とともに体から飛び散る8つの珠の鮮烈なイメージにまず引き込まれる。登場する
八犬士達にはそれぞれの身上や目的があり、彼らが出会い離散を繰り返し様々な事件に
遭遇。一つ一つの挿話が幻想的で化け猫が登場するなど怪談めいたものもあり因縁に
因縁が絡みエピソードがぐいぐい膨らんでゆく。白井喬二の訳文が切れ味よくテンポを崩す
ことなく読み進む。後半、八犬士の中で犬江親兵衛だけが一人歩きして大活躍するところ
など迷走っぷりも面白い。物語が終盤に近づくにつれ、章立てを見るに原作の省略が目に
付くようになる。物語としてはついに八犬士が集結する場面が最大のクライマックスに
なるだろう。「作者二十年の腹稿は今にして小団円を見たのである」というこのくだりの
文章は馬琴の原文で読んだ方がより深い感慨を味わえたであろうとは思うのだが…。最後の
合戦の部分だけでも原作は膨大な量らしいがここは大胆に切り捨て一章にまとめ物語は幕を
降ろす。原作を読んでなくても「南総里見八犬伝」をバランスよくリライトしようとした
白井喬二の意向は伝わってくるし最後まで楽しく読むことができた。読んでいて不思議と
懐かしいような気持ちがするのは「南総里見八犬伝」と言う物語に影響された漫画、映画、
小説等が日本にはたくさんありそういった作品群の古里を垣間見たからかもしれない。
前後するけどTBSのドラマはなんだか画面が中華風で細かいことを言えばいろいろと文句が
あるものの総じては楽しく観ました。本を読んでみれば意外や、原典に沿った筋書だったし
5時間でコンパクトに上手くまとまっていた。八犬士の名前が犬飼、犬川、犬塚だのよく
似てるのがドラマでヴィジュアルのイメージがあったおかげで本を読んでるときも
混乱せずにすんだしね。本ではあまり登場しない玉梓を最大の悪役に持ってきたことで
話がスッキリとしたし演じる菅野美穂には妖艶さがあった。悪女・舟虫がドラマでは運命に
翻弄される悲劇の女になっているのも面白い解釈をしていたんだな。これでヒロイン浜路役
綾瀬はるかにもうちょっと魅力があったら良かったんだけどねえ。