「キング・コング」

キング・コング プレミアム・エディション [DVD]
ピーター・ジャクソン監督。昨年末からもっとも観たかった映画がこれである。3時間を
越える上映時間に体調がついていけるかどうかという心配もあり、なかなか劇場に足が
向かなかった。梅田ブルク7にて昨夜、ようやく観賞。冒険映画撮影のため、映画監督の
カール・デナム(ジャック・ブラック)は職を失い路頭に迷う女優、アン・ダロウ
ナオミ・ワッツ)をスカウトし撮影隊とクルーを率いて船で髑髏島へと向かう。
デナムというエキセントリックな俗物怪物的キャラクターの造型がまず素晴らしく
再現された恐慌時代のニューヨークの映像を味わう余裕すら与えず物語を強引に前に前にと
進める。霧の中から威容を現す髑髏島のショック、船が岩礁を必死ですり抜けるスリルが
凄まじく息を飲む。しかし今思えばこの強烈なシークエンスでさえ前哨戦に過ぎなかった。
一行が島に上陸してからの映像は想像を絶するとしか言いようがない。襲い掛かる原住民の
不気味さ、疾走する恐竜の群れ、グロテスクな虫の大群…文字にすればこれほどまでに
ありきたりなものだが仕上がった映像のセンスが尋常ではない。驚きを通り越して呆れ
かえってしまうのは観客の生理すら無視して普通の活劇映画10本分ぐらいの山場を一気に
叩き込んでくることだ。アクションの発想が異常といってもいいほどでその上に猛烈な
悪趣味が加わり物量で押してくる。次に何を見せられるのかが判らず一瞬たりとも目が
離せない。しかもピーター・ジャクソンは息抜きの場面すら与えようとしない。
こんな拷問のような面白さというものを味わったのは生まれて初めてだ。
もう一つ監督の執念を感じさせるのは主役、キング・コングである。度重なるアンの
ピンチに現れ脅威的な活躍をし野性味溢れる表情は男心を撃ち抜く。ニューヨークに
連れ去られしょげかえって見せ物になっている姿や鎖を千切りアン一人だけを求めて
夜の都会を駆け回る純情さには胸が締め付けられる。それだけにコングとアンが一緒に
エンパイア・ステート・ビルの頂上で眺める朝焼けが美しい(beautiful)。
一場面一場面の力の入り方がただ事ではなくエネルギーの塊を見せつけられたような気が
した。一本の映画として成立しているのが不思議なくらいの作品である。