「崩壊―地底密室の殺人」辻真先 光文社カッパ・ノベルス

崩壊―地底密室の殺人 (カッパ・ノベルス)
地下30階を誇る大深度構造物「ジオトピア」。設計者の五十嵐励は10日後のオープンを前に
地下23階で弟夫婦二組を案内していた。その時、激震が「ジオトピア」を襲う。励が気絶
から醒めると内部は崩壊し停電している。弟たちの安否も判らない。床からは地下水がせり
上がる轟音。励は漆黒の闇の中、地上へと脱出を試みるも背中にナイフの刺さった女性の
死体を見つけてしまう。暗闇の中ではどちらの弟の妻なのかが判らない。閉鎖状況での
推理小説を期待して読んだが閉鎖状況よりも暗闇で何一つ確証が得られないまま推理し
手探りで行動しなければならないという趣向に力点がある。閉じ込められた5人の間には
複雑な男女関係が絡み殺人の動機は誰にあってもおかしくはない。励は推理を重ねるが
暗闇と浸水の恐怖で疑心暗鬼に陥ったり見えないゆえの行き違いがあったりで極限状況を
上手く使って意表を付いた展開を見せてくれる作品。推理小説としてのツィストだけでは
なくじわじわ迫る殺人者の恐怖、終盤には活劇的な場面もあり暗闇という状況を最大限に
生かして盛り上げる。ハリウッド映画のようなサービス精神すら感じるがこの作品を忠実に
映画化するとほとんどの場面でスクリーンが真っ暗になっちゃうんだろうなあ。