「北村薫のミステリー館」北村薫・編 新潮文庫

北村薫のミステリー館 (新潮文庫)
全18編のアンソロジー本格ミステリーものの短編や高橋克彦、ヘンリー・スレッサー
ハイスミスといった推理作家の作品もあるがそれ以上に純文学、絵本、怪談等バラエティに
富んだジャンルの短編が収録されている。これまで読む気のなかった、あるいは知らない
作家の作品が大半で北村薫の読書範囲の広さにまず驚く。どれもが語りのテクニック、
描写のトリックが凝らされ一編ごとに違う世界が展開し、たいへんに読み応えがあった。
巻末には北村薫宮部みゆきによる各作品の面白さについての対談を収録。これが読後感を
倍増する内容の濃さ、お二人と一緒に読んではしゃいでるような気分になる。一編一編を
読み終わっていくのがこれほど楽しいアンソロジーというのも久しぶり。特にお気に入りは
岸本佐知子のごく短い二つの短編「夜枕合戦」「枕の中の行軍」。今年の「本の雑誌
11月号の書評家座談会で大森望豊崎由美と共に参加していたのが岸本佐知子だった。
掲載された書評の文章が自虐的な冷たい怒りのこもった文章で面白いし、変わった発想を
する人だと思っていたら書く短編もシュールで不思議な味わい。文章も癖になるものが
あってこの人のエッセイ集や作品集が刊行されたらぜひ手にしたいです。