「1001秒の恐怖映画」井上雅彦 創元推理文庫

1001秒の恐怖映画 ホラー・ショートショート (創元推理文庫)
古今東西のホラー映画、SF映画をモチーフに綴られた全39編から成るショートショート集。
ホラー&SF映画専門誌「日本版ファンゴリア」に掲載された作品群でかなりマニアックな
映画が題材になっているため敷居が高く元ネタを知らないと判りにくい作品もある。そこで
巻末に題材となった映画についての「解題」がある。これが本の三分の一を占めるほどの
分量があり海外ホラーだけではなく日本の怪談や怪獣映画、テレビのウルトラシリーズまで
言及している内容の濃さ。これだけでもシネマ・エッセイとして楽しんで読める。第二部の
「異形の夢十夜」などはこれだけ読んでも幻想譚として面白いのだが「解題」を読むと
作品の意味ががらりと変わってしまう。怪奇なイメージや恐怖に満ちていても抒情的で
美しい文章はどこか懐かしくてもの哀しい読後感を残す。「あとがき」で作者が
ショートショートについての思い入れを語ってるのも嬉しく和田誠のカバーイラストも含め
丁寧な作りが伝わってくる内容の濃い本。おかげでショートショート集にしては読むのに
時間が掛かった。