「未来獣ヴァイブ」山田正紀 ソノラマノベルズ

未来獣ヴァイブ (ソノラマノベルス)
もともとのタイトルは「機械獣ヴァイブ」でソノラマ文庫から4巻まで刊行されそのまま
未完になっていた作品。なんと20年ぶりに一冊にまとまり完結。
タイトルも「未来獣ヴァイブ」に改められた。当時中学生だったおれはソノラマ文庫から
新刊で出るたび読んでいて巻を追うごとに尻上がりに面白くなるシリーズにのめりこみ
4巻「獣転生編」を読むに至って作者の意図が怪獣小説を書くことだったのを知り
今後の展開に期待した。「SF作家が描く本格的な怪獣小説ってどんなものになるんだろう!」
そんな気持ちとはうらはらに続刊は出ず怪獣SFの興奮は後に映画の平成ガメラシリーズでも
味わうことになるのだがこの作品を観た時も「機械獣ヴァイブ」を思い出した。
そんなわけで20年ぶりの再読でもある「未来獣ヴァイブ」。怪獣小説といっても前半は
伝奇ヴァイオレンス小説のノリ。中盤の古代遺跡にてインディ・ジョーンズばりの大活劇を
挟み、いよいよ巨大怪獣ヴァイブ出現!ついに東京上陸、蹂躙される新宿ビル街!
おお、20年前の興奮が蘇る!しかし…しかし完結といってもまとまるのかよ、これ。
あと20ページぐらいしかないぞ。怪獣が暴れだしてから出てこない主要な登場人物いるけど
このままフェイドアウトじゃねぇだろうな。
終盤は違う意味でドキドキハラハラ。少ないページ数で強引に着地させてしまう力技が
これまた凄い。これが書かれた当時の1985年を舞台にした小説で
現在では情勢が変わってしまってることがラストシーンに面白い効果を与えている。
いじめられっ子で卑屈で陰湿、拳銃を手にしたとたん強くなった高揚感に駆られる
高校生・興田公男は20年たった今読むとやたらリアルなキャラになっていて
主人公よりずっと強い印象が残る。
一本の小説として盛り沢山だし楽しめる内容だとは思います。
けれど20年前の中学生としてはソノラマ文庫版3巻のあとがきで予告していた
本編8巻外伝2巻という構想通りの大作が読みたかった、という気持ちもあってちょっと複雑。
「未来獣ヴァイブ」が一つの完結の形として受け入れられる部分もあるけど
どこかパラレル・ワールドの別の世界で「機械獣ヴァイブ」のまま中断することの
なかった日本が存在したのかも、という夢想もまた残しておきたいんだよ。