「タフの方舟2 天の果実」ジョージ・R.R.マーティン ハヤカワ文庫

タフの方舟 2天の果実 (ハヤカワ文庫SF)
超巨大宇宙船〈方舟〉号を操り惑星環境改造を売る宇宙商人タフのシリーズ完結編。
前巻では帯で宣伝しているほどタフが「あこぎな商人」でもなく一本、筋の通った好印象を
受けたがこの巻収録の「魔獣売ります」「わが名はモーセ」を読むとタフの計算高く冷酷な
一面が強調されていて作品もブラックな味わいが濃くなっている。冒頭の「タフ再臨」は
前巻の「パンと魚」後日譚としても面白いエピソードで鉄火肌のポートマスター、
トリー・ミューンが再登場。ここでの惑星ス=ウスラムの人口問題は最終話、「天の果実」
に持ち越し。無慈悲な決断を冷静に迫るタフと飽くまでも人間としての倫理に拘り続ける
ミューンとの対決は重厚な迫力で一瞬タフが人間らしい感情を見せる場面は忘れがたい。
全体を通してタフとトリー、対照的な2人が惹かれあうドラマが隠し味になっていて、
これはたいへんハードボイルドな結末を迎える。連作なのに長編を読んだ重みを感じる
構成の上手さもあり余韻の残る物語となった。聖書を引用しているのも道理、これは
「神」についての物語だったんだね。