「処刑列車」大石圭 角川ホラー文庫

処刑列車 (角川文庫)
朝のラッシュアワーを過ぎた頃、湘南ライナー茅ヶ崎・平塚間の鉄橋で武器を持った
グループに乗っ取られ突如停止。自らを「彼ら」と呼ぶ犯人グループは一部の乗客を
車両に監禁し次々に処刑を繰り返してゆく。パニック・サスペンス風の設定だが
犯人グループが人質を苛めぬき悪意を炙り出すような要求を出すことにしか目的がなく
物語が全く事態の解決に向かわない。乗客には家族を守ろうとする者もいるし外部には
身代わりになって乗客を救おうとする者もいる。普通なら感動的なドラマになるものをこの
小説は全て踏みにじっていく。これまで読んだ大石作品には救いのある部分もあったが
「処刑列車」には容赦というものが欠片もない。あとがきによると「悪意」をテーマにした
小説ということだがここまで徹底して書けるのが凄まじいし、そこが「面白い」。
「悪意」だけではなく、うだつが上がらず虐げられ笑いものにされてきた者達の「憎悪」が
渦巻いている。そういう意味では復讐の物語としても読めると思う。犯人グループの主犯が
登場し正体を知ると、なおさらそう思えてくる。ネットをやってるととんでもない悪意に
攻撃されてびっくりする事があるがこういった憎しみに裏打ちされているのかも知れない。
読み進むと次第に陰惨な展開に痛快さすら覚えてくる。面白がってると「楽しくないか?」
という主犯の問いかけに遭遇し自分自身の中に潜む「悪意」に気付かされドキリとする。