「いつかパラソルの下で」森絵都 角川書店

いつかパラソルの下で
フリーターの柏原野々は一周忌を前にして事故死した父が生前隠し持っていた女性関係を
知る。事実を知った影響もあってか母は無気力に。あまりに潔癖で厳格な教育に嫌気が
さし父に背を向けて生きようとしてきた野々。彼女は同じ思いを持つ兄と妹とともに父の
故郷、佐渡へと向かう。いまこそ家族を裏切った父の本当の人生を知ろうという思いを
胸に。以上の粗筋から重厚な家族ドラマを想像されているかと思う。森絵都はこちらの
予想をことごとくはぐらかす展開を用意する。大人向けの小説だが森絵都がもともと
児童文学の作家というのを知っていたらぎょっとするオープニングに驚かされ、一周忌を
前にどこか白けてる三兄妹が不倫の事実を知ったときのリアクションなど会話の面白さも
あって笑ってしまう。少しポイントのズレた所から生まれるオフ・ビートなユーモアが
森絵都の面白さで「いつかパラソルの下で」はそんな魅力が一番良く出た作品だと思う。
大上段に構えた三兄妹が佐渡で「父の真実」に遭遇していく後半は特に読みどころ。
自分をドラマの主人公のように思い込んだりするのは誰でもありがちだけど人生は
そういったものではなく、本当にキラキラして輝くものはごく当たり前の日常の中に
埋まっていたりするんじゃないだろうか。森絵都の作品を読み終わるとこんなことに
気付かされる。この小説に出てくるのは身近にいそうな人ばかりだしドラマチックなことが
起こるわけでもない。お話はオフ・ビートでもストレートなものがところどころの言葉に
込められており終盤に出てくる手紙の効果もあって最後には感動が込み上げてくる。