「人面町四丁目」北野勇作 角川ホラー文庫

人面町四丁目 (角川ホラー文庫)
大災害後、遺体安置所で知り合った女性に連れられ、やってきた人面町。彼女を妻とし
暮らし始めた作家“わたし”の奇妙な日常生活。ホラー文庫の連作短編集で、それぞれに
「鱗を剥ぐ」だの「耳を買う」といった、いかにもな副題がついてるけどホラーの味わいは
そんなに強くはない。そこはかとない恐怖はちりばめられてるものの可笑しみのある文章と
懐かしい昭和の匂いがする人面町のイメージが穏やかな読後感を残す。人面町はどこか
ズレた不思議な町で毎度“わたし”は怪しげな人物、奇妙な生き物、怪現象に遭遇するが
とまどいながらも妻に丸め込まれたりしながら日常として受け入れてゆく。SFのティストが
強い作品で不思議なものを不思議なままで放り出した感覚はなんとも新鮮だった。とりわけ
“わたし”が喫茶店で原稿を書いていると巨大な鶏が闖入してくるくだりはあまりの
シュールさに大爆笑。どの話もはっきりした落ちがなく全編読み通しても人面町は
ぼわーんとした印象のままで心に引っ掛かる。日常生活が不思議に満ちたこんな町で
気さくな奥さんと暮らすのはきっと楽しいだろうなあ。