「酒気帯び車椅子」中島らも 集英社

商社マンの小泉はヤクザの脅しを撥ね退けたばかりに暴力によって体を破壊され足を失い
妻を殺され娘は連れ去られた。車椅子が必要になった体で小泉はヤクザに反撃を仕掛ける。
中島らもの遺作にして「初のバイオレンス」小説。お話がストレートな分、著者らしい
リアルな薀蓄や怪しげで毒々しい登場人物といったディティールが際立っている。中盤の
暴行場面は読むのを止めたくなる程どきついもので描写にグロテスクなユーモアが
漂ってるのも恐ろしく血が凍る思いがした。前半のエピソードが実は伏線になっていて
とんでもない方法での復讐行になだれ込むんだけど、どんどん残りページは少なくなるのにギリギリまで復讐が始まらず作者が故人なだけにもしや未完の作品かと冷や冷やした。
あんなエグい場面読まされて仕返しのないまま終りだとたまらんもんな。
復讐小説としては小泉が最初から精神的に強くずっと冷静なのに違和感があるし肝心の
復讐場面はかなり駆け足でバランスの悪い小説ではある。そのあたりは中島らも本人が手を
入れる予定だったのかも知れない。しかしかえって荒削りな迫力が出ているのも事実で
あまりにスーパーバイオレンスなラストの大活劇は痛快だった。
ド派手な打ち上げ花火みたいな小説だよなあ。それだけに中島らもがあまり作品を
読んできた作家じゃなくても本を閉じた瞬間、もの哀しさが込み上げてくる。