「Fake フェイク」五十嵐貴久 幻冬舎

Fake
探偵の宮本は東大生の加奈とともに浪人生の昌史を東京芸大に合格させるため
カンニング作戦を実行。しかしものの見事に作戦は露呈し彼らはどん底の立場に落とされ
昌史の父、西村も区会議員の立場を失う。嵌めたのはカジノのオーナー、沢田。
宮本、加奈、昌史、西村の4人は入念なイカサマ作戦を立て沢田のカジノに乗りこみ
復讐と10億円を賭けてポーカーの勝負に挑む。本年度「このミステリーがすごい!」17位。
ここの著者インタビューによると映画「スティング」の面白さを目指した作品らしい。
「スティング」はコンゲーム(信用詐欺)ものの傑作として知られる映画でミステリー的な
仕掛けの素晴らしさと、おしゃれな衣装や音楽も見事に決まった粋な映画でおれにとっても
お気に入りの一本である。「Fake」は主人公、宮本が頭を使うタイプではなくまるで
アクション小説に出てきそうな行動的な男で大丈夫かよ?と思いつつ読みすすめると、
あまりに単純な手口ながらも前半のカンニング作戦、後半のポーカーの大勝負は手に汗握る
迫力。いよいよラストには「スティング」と同じく大仕掛けがあるのだがこれには
正直やられた!まさかこういう大胆な手でくるとはねえ…。
なるほど、それで宮本の一人称で話が語られてたわけか。
卑劣で隙のない悪役が登場し弱者が最終的には機転で勝つ。読み手の期待した場面を
盛り込んだ上で良い意味で裏切り、きっちり楽しませる感覚は出来の良いハリウッド映画を
見終わった後のような爽快感がある。次回作は「ダイ・ハード」のオマージュ小説「TVJ」
だそうだ。元ネタの映画はあったとしても独自の作品に仕上げる作家ということは
よく判ったのでこちらも読んでみるか。あともう少し作品のタイトルに一工夫して欲しい
ところ。「Fake」が良かったので「安政五年の大脱走」買ってきたけどこれもタイトルが
いま一つだったので今まで手に取らなかったもんね。