「愚か者死すべし」原籙 早川書房

愚か者死すべし
銃声が2発。1発は容疑者に、もう1発は彼を庇おうとした刑事に当たった。事務所を閉める
晦日に、沢崎が巻きこまれた新宿署地下駐車場での狙撃事件は思いもがけぬ方向へと
展開する。なんと10年ぶりになる作者の、そして私立探偵・沢崎シリーズ最新作。前作の
タイトルが「さらば長き眠り」だったんだけどある意味今回の方が「さらば長き眠り」
みたいなもんだ。発売日が待ち遠しく買ってからも読むのが勿体無いのでしばらく手に
取っては表紙をながめてたりしていた。ひきこもりの青年や携帯電話が出てくるものの
不思議と現在を舞台にした雰囲気がなくまるでレトロな私立探偵映画を観てるように世界が
立ち上がってくる小説。お話が少しギクシャクしてたりラスト近くで唐突な展開があったり
ミステリーとしては気になる部分もあるが、この作品の魅力はやはり文章で、巧みな比喩や
沢崎の減らず口に味わいがある。今作から本文が二段組から一段組にかわり作風が軽快
かつスピーディになった気がした。それでもシリーズ本来の魅力は相変わらずでその
意味では頑固なまでに新しさのない作風なんだけどいまや毎日が新刊の洪水というのに
10年ぶりに新作を出す作家がいて作品が変わらぬ輝きを放っているのには崇高さすら感じて
しまう。「あとがき」によると今後は刊行ペースが早くなるそうなので楽しみに待とう。