「今日の別れに」赤川次郎 角川ホラー文庫

今日の別れに (角川ホラー文庫)
赤川次郎のホラーは怖い!そして癖になる後味の悪さがある。最初に読んだホラー作品が
「夜」(角川ホラー文庫)で新興住宅地が地震のため隔絶するというお話。極限に
追い込まれた住民が狂い出す描写はじんわり怖いし謎の怪物は跋扈し一人、一人と
殺される。それまで活躍した登場人物でも善人だろうが悪人だろうが容赦がない。
折れた橋の向こうに人影を見つけ接触をとろうとしたらなんと相手がいきなり飛び降り
自殺するという不条理なくだりは文体がシンプルなだけに震えあがった。その後
「白い雨」「忘れな草」などの他のホラー作品を読んでも怖がらせ方が上手くて舌を
巻いたものである。「今日の別れに」は三篇からなる恐怖小説集。先のホラー文庫
「さよならをもう一度」「滅びの庭」は自選集なので傑作ぞろいだったけどこの本は
ちょっとレベルが落ちるかな。それでも赤川ホラーの特色はよく出ている。収録の
「角に立った家」はある本に登場する屋敷がある日、町外れに出現する話で恐怖よりも
少年と屋敷に住む少女との交流が印象に残り美しい印象。あとの二編は過去の行ないが
報いとなって返ってくるというタイプの物語でホラーというより日本の怪談に近い味わいが
ある。とくに表題作は元恋人が事故にあったのを見捨ててしまった女性が怪異に遭う話で、
これシチュエーションの持っていき方がほんと上手いんで納得しちゃうんだよねえ。
おれもこの状況なら彼女と同じことしてんじゃないかと思う。赤川次郎が書くホラーの
怖さは誰しもが持ってるほんの少しのズルさ、思いやりのなさを抉り出してくるところで
そのぶん、はねかえってきた惨劇に恐怖してしまうんだろうな。全てが終ってラストを
迎えてもそこには新たな恐怖の始まりが待ち構えてたりするんだけど現実がぐらつく
「不安感」はちょっと心地よくてまた味わいたくなる、というわけ。