「狂信者の黙示録」上下2巻 ダグ・リチャードソン 創元推理文庫

狂信者の黙示録 下 (創元推理文庫)狂信者の黙示録 上 (創元推理文庫)
カルト教団の信徒百人が集団自殺、教祖セローは死刑判決を受け獄中に。
セローに選ばれ生き延びた十二人の使徒たちはある計画を秘め十年後、活動を開始する。
標的は上院議員ウィル・サリヴァンの妻だった…。派手めのエンターティメントだが大味な
ところがなく上巻の大半を占める第一部ではウィルの野心的な選挙活動や妻グウェンの
不妊治療に悩む私生活をじっくりと、また議員夫妻に迫る教団使徒の行動をサスペンスフル
に描いていく。妻は妊娠するものの教団に誘拐拉致されてしまうのだが前半さりげなく
張られていた伏線が一斉に動き出しウィルが社会的にどん底のピンチに叩き落とされる
スリル、立ち直ったウィルの捜索行と脱出を図るグウェンを交互に描いたスピ−ディな
後半へと移行していく「語り」のリズムは小気味よくダレない。時期大統領候補を目指す
ウィルの成長ドラマとサイコスリラーばりの追跡劇を結びつけたのがなかなか面白い趣向で
リアルな政治ドラマとカルト教団のファンタスチックな描写が少し噛み合わせが
悪かったり、獄中から陰謀を指揮するセローが「羊たちの沈黙」のレクター博士じみてる
など突っ込み所もあるがこれだけあの手この手を盛り込み作品を面白くしよう、という
作者の気迫はうれしくなる。数多くの人物がそれぞれ個性的に描かれ物語上ちゃんと役目を
持って登場しているのには端整な印象を受けた。広げた風呂敷がきっちり折り畳まれて
終るのも後味が良い。毒舌の黒人スタッフ主任との生きの良いやりとりやマスコミが事件に
大きく関わるといったあたりはいかにもハリウッド映画調。
解説によると「ダイ・ハード2」の脚本に共同参加していたのがリチャードソンで
次回作「ダイ・ハード4」の脚本を執筆、この作品もブルース・ウィリス製作、
(主演は勘弁してくれぇ、ウィリスの上院議員ってのはちょっと…)「リング」
中田秀夫監督で映画化予定だそうである。いまのところは小説として面白かったから十分
だけどね。この手の「映画化」という煽りに釣られて読んでみると話は面白いけど人物や
描写がスカスカなの掴まされるのが多いからなあ…。タイトルからロバート・ラドラム
ばりの謀略アクション期待してたらちょっと違ったな。まあ、いいか。
徹夜で読んだんだし(眠い〜)。