「雨あがる」

雨あがる 特別版 [DVD]
どうにも眠れず深夜テレビをつけたら大阪ローカル局で放映が始まったのでそのまま観賞。
黒澤明が生前残した脚本を黒澤組の助監督であった小泉尭史が監督し映画化したもの。
静謐な美しい作品で胸に沁みる。観ている間、秒針が時を刻む音ですら鬱陶しくなり部屋の
掛時計を取り外したいぐらいだった。旅の浪人、三沢伊兵衛(寺尾聡)は雨で川止めに
あい旅籠に長逗留することになる。伊兵衛は穏やかで野心のない好人物。性格に反して
剣の腕が立つのだが、そのギャップゆえに誤解をされやすく世渡り下手で物事が上手く
いかない。地元の殿様(三船史郎)は話の判る良い君主であるが子供っぽく豪快な性格を
併せ持ち、八方破れである。この殿様が伊兵衛の腕に惚れ込み藩の剣術指南役に雇おうと
したことが騒動の始まり。伊兵衛と殿様、自分の立場を持て余している二人が惹かれあって
いく様子が心暖まる。そして会話がユーモラスで可笑しい楽しい。滑稽だ。殿様の周りの
人々には伊兵衛がまるで凡人にしか見えず、剣術指南役を反対する声も出る。それでは
御前試合をしてみようと立ち合えば伊兵衛は本領を発揮、殺陣のスマートな演出も
素晴らしく痛快。勝負には勝っても伊兵衛の世渡り下手な性格のせいで事態が混乱して
いくのがまたまた可笑しくてしょうがない。そんな伊兵衛をじっと見守る妻たよ
宮崎美子)を観ていると幸せな気分になる。この作品は「優しさ」についての映画だ。
簡単に「優しさ」って言うけれど本当の「優しさ」ってなんだろう?ちょっと考えて
みよう。そういうことを言っているように思う。


見終って、晴々とした気持ちになる様な作品にすること。


黒澤明監督が生前に作ろうとした映画の意図はこれで没後、脚本の「雨あがる」が
黒澤映画のスタッフの手で本当に晴々とした映画に仕上がっているのは素晴らしいことだ
と思う。眠れなくて辛い夜かと思えばこんな端正で筋の通った映画を観れることもある。
いつまでもやまない雨はない。人に優しくして一生懸命生きていれば良い事もあるさ。
「雨あがる」ってタイトルはきっとそういう意味なんだよ。