「凍りのくじら」辻村深月 講談社ノベルズ

凍りのくじら (講談社ノベルス)

7月の図書室。彼と出会ったあの夏は、忘れない。
藤子・F・不二雄をこよなく愛する、有名カメラマンの父・芦沢光が失踪してから5年。残された病気の母と2人、毀(こわ)れそうな家族をたったひとりで支えてきた高校生・理帆子の前に、思い掛けず現れた1人の青年・別所あきら。彼の優しさが孤独だった理帆子の心を少しずつ癒していくが、昔の恋人の存在によって事態は思わぬ方向へ進んでしまう……。家族と大切な人との繋がりを鋭い感性で描く“少し不思議”な物語(ミステリー)。

語り手で主人公の高校生・理帆子が読書家で藤子・F・不二雄の「ドラえもん」に思い入れ
がある等共感出来る部分は多々ある。それでも文章があまりに自意識過剰で生臭く苦手な
タイプの小説でどうしても感情移入がしにくい。終盤にはドラマチックな展開があり最後の
仕掛けには驚かされるし読みどころは多いのだが年齢的にも女子高生と同じように陶酔
出来ず心が動かないまま読み終わってしまった。これをおれが自意識過剰で青臭い十代に
読んでいたら印象はまた違ったのだろうか?理帆子の「元彼」若尾が人間的に壊れていく
ところは繊細な描写が効いていて、たいへん恐ろしく角川ホラー文庫あたりのおどろしい
装丁で読んでいたら主人公の不安定さも受け入れて素直に感動していたかもしれない。