「夜のピクニック」恩田陸 新潮社

夜のピクニック
夜を徹して80キロを歩き通すという高校生活最後の一大イベント「歩行祭」。
卒業を前にした生徒たちは異性に告白をしたり想い出話をしながら遠いゴールを目指す。
甲田貴子はこの行事で一つの賭けをすることにした。複雑な家庭環境のため同じ
クラスなのに接することの出来なかった異母兄弟、西脇融への思いを清算するために。
昨年の夏、刊行されたばかりの頃にもうこの本は買っていた。どうにも読む気がおきず
積読にしたまま時間が経ち、その後何度もこの作品が高く評価されているのを目にしたし
夜のピクニック」は本年度の本屋大賞を受賞した。今回ようやく読んでみてもこれは
評判通りの傑作だと思う。中心になる貴子と融以外の生徒たちにしてもそれぞれの想いが
あり彼らの言動一つ一つがみずみずしい。とりたてて大きな事件が起こることも無いのに
終盤になるとゴールまでに兄弟が互いに話すことができるかどうか、というサスペンスが
ぐっと盛上がってくる。作者は二人のために物語の中で奇跡を起こそうとする。小説を読む
喜びってこういう奇跡が起こる瞬間にあるんだよねえ。なのにさ…読み終わって味わう
この寂しさはなんだよ。自身の高校時代を振りかえると当時は対人恐怖症が強く人と上手く
話せなかったもんなあ。もし高校時代のおれが作中にいたらゴールまで黙々とうつむいて
歩いていただけだったと思う。「夜のピクニック」にはそういう生徒は描かれていないので
物語に引きこまれながらも登場人物の誰にもなれず、一緒にも歩けなかった気がして
しまった。「本の雑誌増刊2005 本屋大賞」の投票者のコメントやネット上の感想を見ても
「懐かしい」「高校時代が甦る」といった感想が沢山見うけられる。同じように思えない
のが寂しいし内容が良いだけにこの本が憎々しい。読み終わった後まで一人夜道歩いてる
ような気持ちだぜ…。こういう思いするのはなんとなく判ってたんだよな、この本。
だから読みだせなかったんだ。