「永遠も半ばを過ぎて」 中島らも 文春文庫

永遠も半ばを過ぎて (文春文庫)
写植屋・波多野、三流詐欺師・相川、出版社勤務の女性・宇井彼らが「謎の原稿」を種に
仕掛ける大事件の顛末。三人組がそれぞれ「おれ」「僕」「わたし」と語り手が幾度も
入れ替わり一つの物語が出来上がっているのが不思議な効果を出していて、波多野が薬で
ラリって写植の文面が暴走する件や相川が自慢げに語る様々な詐欺の手口など読んでると
頭がぐらぐらしてくる。生真面目な波多野といい加減な相川の会話が可笑しく印刷や写植、
出版界の裏側その他様々な薀蓄に「ほうー」と感心しているともっともらしくペテンに
掛けられているので現実感があやふやになってくる。文章のサーカスというべき小説で
お酒を飲んで酔ってるような読み心地。短めの作品なのにデティールが豊かであちら
こちらとひっぱりまわされる奔放な語りがラストでちゃんと着地点に収まるのは妙な
快感がある。小説では「今夜、すべてのバーで」「ガダラの豚」「人体模型の夜」数冊の
エッセイを読んだだけだがどれも語りがべらぼうに上手くて円熟した芸人のようだった。
今回「永遠も半ばを過ぎて」も、らも氏の逝去をきっかけに読んでみたけど生前にもっと
いろんな作品に触れておくんだった、と少し後悔。ご冥福をお祈りいたします。